go out TAXI leave a rut

インタビュー | 2024.06.20

【社長インタビューシリーズ:船戸敬太】介護業界の現場で学んだことを紹介

2020年に創業した介護タクシー「go out taxi」。愛知県春日井市の社会福祉法人で介護士、生活相談員、ケアマネジャーと介護・福祉の経験を積んだ介護福祉士が代表を務める介護タクシー会社です。

今回は、代表の船戸氏がこれまで経験してきた介護の現場で学んだことや葛藤などを紹介します。

◆船戸敬太(ふなと・けいた)プロフィール
2010年日本福祉大学卒業。2010年~2016年社会福祉法人愛知県同胞援護会特別養護老人ホーム春緑苑にて特別養護老人ホームの現場職員、主任介護士として勤務。
2017年~2019年単独ショートステイの専任生活相談員として勤務。数多くの緊急対応、虐待、困難事例に取り組む。
2019年~2020年デイサービスの生活相談員、ケアマネジャーとして勤務。
2020年介護タクシー「go out taxi」を創業。

特別養護老人ホーム|様々な倫理観の中に身を置いたり葛藤を感じたりした

はじめに勤務した特別養護老人ホームではどのようなことを学びましたか?

まずは現場の職員としての介護のいろはです。それと同時に、職員の意識を高くするためには自分自身に強い思いがないとむずかしいことも学びました。

当時は新規の利用者さんの入居する理由や背景がわからず、部屋が空いたら次々と人が入れ替わる中で忙しく働いていました。もちろん、新規の方の情報は書面から把握するため字を追いますが、深いバックグラウンドまでは把握できませんでした。他の職員も同様です。そのような状況をなんとかしたいとは思っていました。

施設は風通しがよいとはいえず、職員と利用者さんとの関わりだけの毎日でした。外部の目も入りづらかったです。職員は名刺を持っているわけでもなければ、外線電話にも出ない。そういう環境で意識を高くもって仕事するには、よほど自分自身に強い気持ち(こうしていきたいという気持ち)がないとむずかしいことがわかりました。どうすれば職員の意識を高めていけるのかを考え、苦労しました。

印象に残った出来事はなんですか

特別養護老人ホームはいわゆる終の棲家という場所で、利用者さんたちの介護度が重く、認知症状が強かったり、身体的な介助を多く必要としたります。そのため、みなさん本当に外出の機会をもてないのだなということを痛感しました。

朝起きて、ご飯を食べて、寝て。また起きて、ご飯を食べて……。

といった毎日の繰り返しで、行事といえば施設の中で完結することのみです。

その中で、職員たちが「外で髪を切ってきた」「遊んできた」と利用者さんに話すのです。

「それが会話の種になるからいいよね」と思う人もいれば、「あまり施設から外に出る機会がない人の前で話すのって不謹慎じゃないの?」と思う人もいて、色々な倫理観の中で揺さぶられたことが印象に残っています。

現場ではどんな葛藤がありましたか

何に重きをおくべきなのか葛藤しました。利用者さんへ丁寧に対応しようと思えばいくらでもできるのですが、一人に時間をかけすぎると他にしわ寄せがいってしまいます。丁寧に対応するあまり業務を残してしまい、他の職員に対応させてしまうこともありました。みんなで仕事しているので、こなすことも大切だとは思います。業務の何を優先するのかは個々人によって尺度が異なりますし。でも、私は利用者さんへの思いが強いとじっくり時間をかけて丁寧に関わってしまうので、やはりそのせいで誰かにしわよせがいってしまう。チームの和を乱すわけにはいかないけど、丁寧に対応したい気持ちもある。何に重きをおくべきなのかを感じながら働いていました。

ショートステイ|地域ニーズにこたえる大変さを経験した

ショートステイで勤務するきっかけや、どのような思いをもって業務にあたっていたかを教えていただけますか

特養で6年働き主任を経験しましたが、組織の中を改革していきたい思いがあり、ショートステイでの仕事へシフトしました。

というのも、私自身を「介護職としての視点や経験しかないから、名刺も持っていないし、外線電話にも出ない人間」だと、周りが軽く見ていたからです。組織にそういった偏った考え方があると感じ、変えたいと思いました。

ショートステイでは相談員として、入所調整や請求業務など、数字を使う仕事を多く経験しました。とくに稼働率については深く考えたと思います。そもそも稼働率とは、無理に上げるのではなく、施設を利用したい方が柔軟に利用できたうえで、自然に上がるべきだと考えていました。本当に必要な方であれば、緊急の案件でもなんでもとにかく受け入れていくことで、結果的に稼働率が上がることにつながるんだという考えで対応しました。

ショートステイではどのような学びがありましたか

ショートステイの地域におけるニーズがあまりにも高いことを学びました。そして、こういう仕事をしないと気づきにくいのですが、自分が平穏に暮らしているところの2~3軒となりでとても困っている方がいるのです。そういう方たちの受け入れをしていく中で、特養勤務ではわからなかった入所の経緯を理解できるようになりました。

実際に、これほどまでに多くの緊急案件があるのかと驚きの連続でした。今朝ニュースで見た事故に遭って亡くなった方のご家族を緊急で受け入れたり、虐待で体中あざだらけの方を受け入れたりしたこともありました。ほかにも痴話げんかで「殺されてしまう」とSOSを発信する方もいました。いわゆる駆け込み寺のようなニーズがショートステイにはあるのです。そしてすぐには入所できない状況も目の当たりにしました。

ショートステイでも葛藤はありましたか?

ありました。正当な理由なく提供を拒否してはいけないので、受けていかないといけないとは思っています。何より、地域の中で先頭をきって福祉サービスの提供を行うべき立場の社会福祉法人であるという自覚もありました。しかし、現場を経験しているから、大変なのもわかります。大変さを知っているので、いくら自分が相談員だからといっても、現場にそういうものだから(提供拒否の禁止だから)というのは言いづらいです。毎日本当にいろんな方が来るので、現場も切迫していて大変なのもわかっていました。でも、利用者さんは家よりもショートステイの方が環境的に安全なので、相談員としては利用してもらった方がいい。そういう葛藤を次々に感じて、ああショートは一番大変な部署だったということを実感しました。

激務の中で得られたことや収穫はありましたか

地域の皆さんとつながれたことです。

医療機関や地域の福祉課からも「こういう困っている方がいる」と、紹介していただけるようになりました。地域の現状も知ることができました。そして、ショートステイのニーズも他の地域資源との歯車になって機能しているという点を知りました。

たとえば入所の相談をしてきた病院が「救急車を毎日のように受け入れて切迫した状況であること」を意識できずに、相談員が慎重になって「もう一回状態確認してから」などと悠長なことを言っていたら、話にならないと思われてしまうのです。相談先の機能がどうなっているのかまで理解し、意識できてこそ地域の歯車としてしっかり機能していくのです。

デイサービス|画一的なサービスからの脱却が大切だと感じた

続いてデイサービスではどのような学びがありましたか

特色を出していかないと生き残っていけないことを知りました。画一的なサービスを提供する状況に対していろいろと考えました。そういうサービスを好む方もいるので、一概に何がいい、悪いかとはいえません。しかし、デイサービスでは総合事業対象者である軽度の方もいたので、サービスの幅をもっと拡げていけないものかと感じていました。年を重ねてきた方たちに、画一的なレクリエーションが今後もずっとつづいていくようでは生き残っていけないと感じたのです。これはショートのような切迫感がなかったからこそ、考えられたと思います。

デイサービスは、大人の社交場になりうる存在です。コミュニティができて、利用者さん同士で情報交換できるので、サービス内容しだいで伸びしろがあるはずだと思いました。デイサービスは乱立しており言い方は悪いのですが、客の取り合いです。しかし特色も出しづらいという面もあります。ですからとにかくどんな特色を出せるかを考え、営業活動をして、利用につなげることが、この業界で続けていくコツなのだと感じました。

ケアマネジャー|やっぱり自分はサービス提供側に立ちたい

ケアマネジャーを経験し、サービス事業者との違いは感じましたか

ケアマネジャーを経験し「あぁ、自分はサービスを提供する側でありたい」と思いました。

社会資源はいろいろあり、いいサービスももちろんあります。しかし、事業所の担当者が一人交代するだけでサービス体制がガラッと変わってしまうこともあります。また、ケアマネジャーをしていると地域の色々な施設の内情もだんだんと見えてくるので、「このケースだと近隣では受け入れてもらえないだろう」といったこともわかるようになりました。それなら自分でサービス提供側に回って、直接支援した方がいいという考えに行きついたのです。施設の内情や相談員の動きを知っているからこそ、ケアマネジャーとしてつなぎ役をするより、現場に立ってサービスを直接提供するほうが寄り添えるからです。なんだかケアマネジャーをやっているともったいないと思いました。サービス提供者や相談員などを経験しているからこそ感じることができたと思います。